デカルトの「困難は分割せよ」の意味とは?
更新日:2024.08.30スタッフブログ「困難は分割せよ」は、井上ひさしの作品に登場し、デカルトの名言としても知られている言葉です。難しい問題を解決する時に役立つといわれ、ビジネスの場でも重視する傾向があります。この言葉について理解を深めれば、厄介な業務課題の解決などに活かせるでしょう。そこで今回は、デカルトの言葉「困難は分割せよ」の概要を解説し、ビジネスにもたらすメリットや実践例をご紹介します。
目次
「困難は分割せよ」とは
「困難は分割せよ」は、井上ひさしの著作で使われた表現です。また、ルネ・デカルトも同様の記述を残しており、デカルトの言葉として紹介されるケースも多く見られます。
ルネ・デカルトと方法序説
ルネ・デカルトは、「我思う、ゆえに我あり」の言葉で広く知られ、近世哲学の祖と称されるフランスの哲学者です。
1596年に中部フランスの地で生まれ、10~18歳までは、フランス王アンリ4世が提供したラ・フレーシュ学院に在籍しています。1614年に学院を去ると、1618年から数年をかけてオランダ・ドイツやイタリアを訪れました。遍歴の旅を終えると、しばらくパリで暮らし、1628年にオランダへ移住します。その後、1649年にはスウェーデン女王の招きを受けてストックホルムを訪れ、翌年に53歳で生涯を閉じました。
このような一生を送るなか、デカルトは、1618~1649年にわたり複数の書物を記しています。名だたる書物のうちオランダ移住後の1637年に公刊された著作が、『方法序説』です。同書は500ページを超える大著の序文であり、全6部の構成です。第1部の学問に関する考察から始まり、数々の有名な記述が残され、近世哲学を代表する世界的な名著となっています。
『方法序説』に記された言葉
『方法序説』に記された「困難は分割せよ」に相当する言葉は、フランス語の原文を示すと次の通りです。
Le second était de diviser chacune des difficultés que j’examinerais, en autant de parcelles qu’il se pourrait,et qu’il serait requis pour les mieux résoudre.
上記の文は『方法序説』の第2部にあり、和訳は以下の通りです。
第二は、私が検討する難問の一つ一つを、できるだけ多くの、しかも問題をよりよく解くために必要なだけの小部分に分割すること
言葉の意味合いを簡単に記すと、「難解な検討課題を解決するには、問題を細かく分割する方法が有効」といったニュアンスでしょう。以上の考え方と近似し、デカルトの名言ともなった表現が、井上ひさし著『握手』に登場する「困難は分割せよ」です。
実際は、同作でルロイ修道士が主人公に「仕事がうまくいかない時は、この言葉を思い出して下さい」という台詞の後に語った言葉です。「困難は分割せよ」と伝えた後に「問題を細かく割って一つ一つ地道に片付けて行くのです」と続けます。「困難は分割せよ」は、話の流れから『方法序説』の難問を解決する方法に相当すると理解され、デカルトの名言としても知れ渡っています。
「困難の分割」がもたらすメリット
「困難の分割」がもたらす主なメリットは、暗記作業や複雑な作業をスムーズに進めやすくなるところです。
暗記作業に有用
暗記作業を行う場合、すべて1度に丸暗記するより細かく分けて覚えたほうが、楽に記憶できるといわれています。この方法の効果を具体的に物語る代表例は、電話番号です。日本の電話番号は、基本的に10~11桁で構成されています。初対面の人からスマホの番号を教わった際、すぐに全部は覚えられないとの声が多く聞かれます。
それでも、一度に10~11桁全部でなく3~4桁ごとに分けると、頭に入りやすくなるでしょう。スマホの場合、090や080は共通しているため、残り8桁を各4桁に区切れば記憶しやすくなると考えられます。この覚え方は、心理学や脳科学の分野で「チャンク化」と呼ばれ、電話番号に限らず多くの情報を暗記する時に役立つと期待できます。
複雑な作業をスムーズに処理
困難を分割する方法は、複雑な作業をスムーズに処理する手段としても有効です。複雑に見える作業は、単純作業を組み合わせている場合が多く、たいてい細かく分けられます。1回での作業完了は難しくても、数段階に分割すれば、円滑に進めやすくなるケースは珍しくありません。
この方法が具体的に使える場面は、たとえばピアノを練習する時です。難易度の高い楽曲は、譜面を一見して正確に弾くことは難しいといわれています。一方、いくつかの範囲に分けて練習すれば、一定のペースで最後まで演奏を進めていけるでしょう。複雑な作業も同様であり、個々の手順を順々に身につければ、やがて速やかに処理できるようになると考えられます。
大量の作業は複数人で分担
大量の作業は、複数人で分担する方法が得策です。日々の家事から仕事まで、作業量が多い場合、すべて1人で処理することは難しくなってきます。その際に周りが手伝ってくれると、各々の作業量は減り、短時間で処理しやすくなります。仕事の場合、大量の作業を1人で抱えず複数人で分ければ、個々の業務負担を減らすのに効果的です。また、作業時間が短縮された場合、生産性の向上につながると考えられます。困難の分割は以上のようなメリットをもたらすと見込まれるため、ビジネスで活用することはおすすめといえるでしょう。
ビジネスにおける「困難は分割せよ」の実践例
ビジネスにおける「困難は分割せよ」の実践例としては、「Divide and Conquer(分割統治法)」という考え方や「マンダラチャート」と呼ばれるフレームワークが挙げられます。
「Divide and Conquer(分割統治法)」について
「Divide and Conquer(分割統治法)」は、問題解決の方法や手順を意味するアルゴリズムの基本概念の一つです。具体的には、大きな問題の解決が難しい時、小さな問題に分けて個別に解いていく手法を指します。ビジネスで大きな問題に直面すると、そのままでは解決に手間取るケースが多く見られます。その際、小さく分ければ、個別の問題については解決策を検討しやすくなるでしょう。
Divide and Conquer(分割統治法)では、先に個々の解決策を考えてから、最終的に統合して大きな問題を解決へ導きます。従来この手法は、数学をはじめ多様な分野で取り入れられてきました。また、ビジネスの場においては、プログラミングやソフトウェア開発にも活用されています。
「マンダラチャート」の概要
「マンダラチャート」は、9×9のマス目で構成されるフレームワークです。基本的には中心に9マスあり、残りのマスが周りを取り囲むため、その見た目からマンダラの名がつけられています。野球界で活躍の目覚ましい大谷翔平選手が高校時代に作成していたため、有名になったといわれています。マンダラチャートの利用目的は、思考・発想を洗い出したり難解な目標を達成したりすることです。具体的には、中央のマス目にメインのアイデアや最終的な目標を記し、周りのマスは関連する発想や最終目標に向けた課題で埋めていきます。
以上のようにチャートを作成すれば、頭のなかの思考は整理され、また最終目標を達成するまでの流れも見やすくなるでしょう。ビジネスシーンでも、商品開発のアイデアや課題解決の手順を明示するのに役立つと期待され、実践的な導入が進められています。
分割する際の注意点
困難を細かく分ける際は、適切に分割しているか、あるいは全体像を把握できているかといった点に注意が必要です。
適切な分割
困難な問題を細分化する場合、適切に分割する配慮が求められます。複雑で大きな問題も、過度に細かく分けると、個別で解決する小さな問題は増えていきます。小さな問題の数が増加すれば、それだけ全体を解決するまでに多くの時間がかかるでしょう。仕事でも個々の作業量が大幅に増えた場合、かえって業務全体の流れは非効率になる可能性があります。
全体像の把握
個々の小さな問題に取り組む時は、全体像も把握する姿勢が大切です。小さな問題を別々に解決していく場合、通常、個別の問題解決に意識が傾きやすくなります。ただし、ビジネスで個々のタスクに集中し過ぎると、プロジェクト全体の目標を見失いがちです。多くの業務は最終的な事業目標と関連しているため、何を目指しているか全体像を把握する姿勢は大切と考えられます。
これらの点に気をつければ、「困難は分割せよ」の考え方をビジネスで上手に活かせると期待できます。
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