意外と知らない?時間単位有給休暇の上限について
更新日:2023.06.02ビジネス豆知識時間単位有給休暇は、会社が所定の手続きを済ませると導入できる仕組みです。有給休暇の選択肢を広げるメリットがあり、職場内で休暇の取得率が低い企業なら、導入を検討する価値は高いと期待されています。ただし、法律で義務づけられた規定ではないため、会社によっては馴染みが薄いかもしれません。そこで今回は、時間単位有給休暇制度の基礎的な情報や導入時のメリットなどをご紹介します。有給休暇の取得率向上のために、ぜひ参考にしてみてください。
目次
時間単位有給休暇とは
時間単位有給休暇とは、本来なら1日単位で認められる年次有給休暇を、時間単位で取得できる仕組みです。日本では、2010年の労働基準法改正により職場での導入が可能になりました。
制度上の徴特
時間単位有給休暇の仕組みは、最小1時間単位で有給休暇を取得できるところが制度上の大きな特徴です。もともと、年次有給休暇は1日単位での取得が原則とされていました。この点は、改正法の施行後も基本的に変わりません。従来と同じように、少なくとも1日から有給休暇を取得することが求められています。
それに対し時間単位有給休暇は、1時間が最小の単位です。各自の予定に合わせ、2時間あるいは3時間の有給を取得しても問題ありません。休暇期間を時間単位で細かく区切れる点は、この仕組みならではの特徴といえます。また法的義務はなく、新しい仕組みを導入するかどうか職場が任意で決められる点も、時間単位有給休暇の特徴の一つに挙げられるでしょう。
法改正の理由
2010年に日本で労働基準法が改正された主な理由は、国内における年次有給休暇の消化率の伸び悩みです。そもそも有給休暇に関する法律の制定は、しっかり労働者の心身を休ませることが目的でした。まとまった日数にわたる休暇の取得が望ましいと考えられ、1日単位が基本となります。
ただ実際のところ、多くの職場では有給休暇の消化が進みませんでした。原因は、法律上の考え方が労働現場の実情に合っていなかったためと見られています。この点をふまえ、労働基準法は改正する必要があると判断されました。結果的に考案された方法が、時間単位で有給休暇を取得できる仕組みです。法規定の柔軟性が高まれば、有給休暇は取りやすくなると期待されています。
他の休暇制度との併用
時間単位有給休暇は、半日単位の有給休暇(半休)や子の看護休暇・介護休暇と併用できます。半日単位の有給休暇は、出勤日の午前もしくは午後に半日だけ有給休暇を取得する方法です。従来施行されていた休暇制度の一つであり、時間単位有給休暇と併用した場合は別々に扱われます。
子の看護休暇・介護休暇は、育児・介護休業法施行規則等の改正により2021年から時間単位で取得可能になりました。最小の取得単位は共通していますが、制度そのものが有給休暇と異なり併用時には両者の取得が認められます。なお計画年休は、企業側が取得日を指定する制度です。労働者側に日程の決定権はなく、時間単位有給休暇とは併用できないと定められています。
導入方法や注意点
有給休暇が時間単位で認められるのは、この仕組みが職場の就業規則として導入されている場合です。導入時には、適用対象、取得日数の上限、賃金の計算方法などについて注意する必要があります。
導入方法
時間単位有給休暇は上記の通り法律上の義務はなく、職場で導入するには労使協定の締結と就業規則への記載が必須です。労使協定は、会社側と従業員との間の書面による約束を指します。従業員は、労働者の過半数を代表することが求められます。労使協定で定める項目は、「適用対象」「取得可能な日数」「1日あたりの時間数」「1時間以外に取得を認める単位」などです。
就業規則には、時間単位有給休暇を導入する旨、および労使協定で決まった内容を記載します。それぞれの内容が整合していれば問題なく、基本的に同じ内容が記載してあればよしとされています。労使協定の締結内容を労働基準監督署に届け出る必要はありませんが、就業規則の変更後は、同監督署への届出が不可欠です。
適用対象
時間単位有給休暇の適用対象は、会社側で任意に設定できます。工場で多人数が一斉に作業しなければいけないケースなどは、適用範囲から外せる事例に挙げられています。ただ、育児や通院を含め、休暇の利用目的による取得制限は認められていません。
取得日数の上限
取得日数の上限は、1年あたりトータルで5日までです。本来的に年次有給休暇は「まとまった日数の取得が望ましい」との考え方があり、職場の実情にも配慮した結果から日数制限が設けられました。そのため、上限を超えると通常通り時間単位でなく1日単位で処理されます。
賃金の計算方法
有給休暇を時間単位で取得した場合、賃金の計算方法は1日単位の場合と大きく変わりません。実際に計算する時の主な基準は、普段の賃金、法律が定める平均賃金、標準的な報酬日額の3つです。いずれかの数値を使いながら、当日の労働時間をふまえ有給分の金額を割り出します。
その他
その他の注意点は、繰越方法や時季変更権に関する問題です。1年で時間単位の有給休暇が消化されなかった場合、残りは繰り越されますが、上乗せでなく翌年の5日に含まれます。時季変更権は、通常業務に支障がある時に会社側が取得の時季を変更できる権利です。時間単位も通常の1日単位と同じく、この権利は認められています。さらに分単位の休暇設定は不可などの規定もあり、職場での導入時には制度の詳細について事前確認が怠れません。
制度導入のメリット・デメリット
時間単位有給休暇を職場で導入する大きなメリットは、従業員にとって有給の取得方法の選択肢が広がることです。有給消化率が向上すれば、従業員エンゲージメントの向上につながると考えられるため、会社にもプラスになるでしょう。
従業員にとって使い勝手がよい
有給休暇の取得方法を従業員の都合で融通できるところは、時間単位有給休暇ならではのメリットです。従業員が有給休暇を使いたいと考える代表的な例として、子どもの体調不良などが挙げられます。たとえば、子どもが急に体調不良を訴えた際は、少し様子を見る時間が必要です。1日単位で休暇を取ると、すぐ子どもが回復した場合に時間を持て余すかもしれません。
仕事の納期が迫っている時などは、時間単位で休めると都合のよいタイミングで業務に戻れます。大切な子どもが元気になった姿を確認してから職場に復帰できれば、安心して自分の仕事に臨めるでしょう。また私用のため定時より1~2時間ほど早く退社するのも可能であり、プライベートを充実させる意味でも利点は大きいといえます。
有給休暇の消化率向上
有給休暇の消化率が向上すると、従業員だけでなく会社が得られるメリットも小さくありません。2019年施行の働き方改革関連法によれば、「有給付与日数が10日以上の従業員は、最低5日は有給取得しなければならない」と規定されています。その背景には、日本における平均有給消化率の低さがあります。
実際のところ、時間単位の有給休暇は法的義務となった取得日数に含まれません。それでも職場内で取得率が増せば、これまで抵抗感の強かった1日単位の有給休暇も取りやすくなると見られています。今後、時間単位にとどまらず有給休暇の消化率が向上すれば、国内企業の国際的な評価も高まると期待されています。
主なデメリット
時間単位有給休暇に伴うデメリットは、主に事務的な手続きが複雑になる点です。取得日数などは、1日単位と別々に管理する必要があります。時間単位と1日単位の有給休暇は、法的に義務化された取得日数に含まれるかどうかで明確な違いがあります。また時間単位は上限が5日であり、従来とは別途の管理が不可欠です。
それぞれの方法で休暇を取ると、取得日数のカウントや賃金計算は複雑になると指摘されています。以前より作業量が増えれば、業務の担当者は負担が重くなる可能性もあります。とはいえ時間単位有給休暇は、使い勝手のよさが大きな魅力です。職場で1日単位の有給取得率が伸び悩んでいるなら、時間単位の導入を検討してみてください。
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