所有者不明土地の問題解決に向けた法改正を解説

更新日:2023.10.23スタッフブログ

所有者不明土地の問題解決に向けた法改正を解説

所有者不明土地は、誰が所有者か公的に確認できなくなっている土地です。適切に管理されずトラブルを招く可能性があり、最近は法制度の整備が進んでいます。2023年4月以降は不動産登記法の改正項目が順次施行されるため、変更点を理解しておくと対応しやすくなるでしょう。そこで今回は、所有者不明土地の概要をふまえ法制度の変遷や今後に施行される改正内容をご紹介します

所有者不明土地の概要

所有者不明土地の概要

所有者不明土地とは、「所有者が判明しない」あるいは「所有者と連絡を取れない」土地です。昨今、この種の土地が増えたため、放置できない問題になっています。以下では、所有者不明土地の定義や発生・増加の理由をご紹介します

言葉の定義

所有者不明土地は、様々な事情により所有者を特定もしくは追跡できなくなっている土地です。
2018年に関連法で示された定義をふまえると、大きく次の5タイプに分類されます。

  • 登記簿や固定資産課税台帳で所有者の情報が更新されていない土地
  • 複数の台帳で所有者の情報が異なり1人に特定できない土地
  • 所有者を特定できても所在地や連絡先が明記されていない土地
  • 名義人が存命でなく相続人(所有権者)が複数になっている共有地
  • すべての共有者が台帳に記載されず所有者が不明の土地

また、国土交通省が2022年に公表したガイドブックでは、「不動産登記簿等を参照しても所有者が直ちに判明しない土地」「所有者が判明しても当人に連絡がつかない土地」と説明しています。

発生・増加の理由

所有者不明土地が発生・増加する主な理由は、土地の相続者が「登記しなくても困らない」と認識しているためです。そもそも、不動産の売買や相続により土地の所有権が移動した時、名義変更の手続きは法的に任意と定められています。法律上の義務規定ではないため、ここ数年に限らず新たな土地の所有者が登記しないケースは知られていました。

最近になり所有者不明土地が増えた背景には、土地を相続した時に多くの相続者が登記を留保している状況があります。2016年度に所有者不明土地問題の研究機関が実施した調査によれば、相続時の未登記が所有者不明土地全体の66.7%を占めました。さらに同研究機関は、何も対策しなければ所有者不明土地は今後も増え続ける可能性があると予想しています。
所有者不明土地問題研究会(2017). 「最終報告」. 一般財団法人 国土計画協会.
https://www.kok.or.jp/project/fumei.html (参照2023-04-19).

主な問題点

所有者不明土地が抱える大きな問題点は、様々な形で弊害を引き起こすところです。代表的な事例としては、周囲に及ぼす危険性が挙げられます。土地が放置され荒廃が進むと、老朽化した家屋や壁は倒壊する恐れがあります。屋根瓦や壁材が道路に崩れ落ちれば、通行人がケガするリスクは小さくないでしょう。

治安悪化も、多くの所得不明土地が招いている問題です。管理の目が届いていない土地は、部外者に不法侵入される事態が生じています。屋外にゴミや廃材が置かれている場合、放火を誘発すると指摘する声も少なくありません。さらに土地の所有者が特定できないと不動産売買や後々の相続も難しくなり、多方面にわたり支障があると問題視されています。

法制度の変遷

法制度の変遷

国内では、所有者不明土地の問題を解消するため、法制度の整備が進行中です。政府は、諸制度により所有者不明土地の適切かつ円滑な管理・利用を目指しています。以下では、ここ数年における関連制度の変遷をご紹介します

特別措置法の制定

2018年、所有者不明土地が増えるなか制定された法制度は、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」です。同法が成立する前年、先述の所有者不明土地問題の研究機関により2016年度に実施された地籍調査の最終報告が示されました。調査対象は全国の563市区町村であり、所有者不明土地の面積は九州本島を上回る約410万haになると推計されています。

政府は所有者不明土地が増加傾向にある現状をふまえ、放置できない問題として本格的な対策を進め始めました。法制度を整備する主目的は、「所有者不明土地の利用の円滑化と適正な管理の確保」と述べられています。同法が掲げた基本的な対策は、次の3つです。

  • 所有者不明土地の円滑な利用の促進
  • 所有者探索の合理化
  • 所有者不明土地の適切な管理

2019年6月の全面施行に伴い、公的書類による所得者探索・必要に応じた所得者不明土地の適切な管理・公共目的の利用の円滑化は法的に可能となりました。

2019年以降の動き

2019年以降は、新たな法律の制定や土地や民事に関する現行法の改正・見直しが続いています。2019年に新しく制定された法律は、「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律」です。同年には「土地基本法」が改正され、2021年には「民事基本法制」が見直されました。

新法に示された「表題部所有者不明土地」は、かつての変則的な所有者の記載が現在まで引き継がれた土地です。同法では、これらの記録を修正することで登記の適正化を目指しています。

土地基本法の改正は、所有者不明土地の適正な管理・利用が主な目的です。この目的を果たすため、土地の所有者には所有地を適切に管理・利用するとともに権利関係や地境を明確化する責務が追加されました。民事基本法制が見直された目的は、所有者不明土地の発生予防と既存している事例の円滑な利用です。

不動産登記法や民法の改正により、これらの目的の達成が目指されています。不動産登記法などの改正内容は、2023年から順次施行される予定です。何が変わるか理解しておけば、対処しやすくなると考えられます。

不動産登記法などの改正内容

不動産登記法などの改正内容

不動産登記法などの改正で2023年4月以降に変わる項目は、相続登記や所有者情報の変更登記に関する規定です。以下では、これから実施される主な改正内容をご紹介します

相続登記は義務化

2021年の不動産登記法の改正により、土地を相続した時の相続登記は所有者の義務になります。旧法は、土地の相続登記に義務規定が設けられず任意でした。手続きを先送りしても罰則はなく、相続された土地の多くは名義変更されず所有者の特定が難しくなっていると見られています。

相続時の土地の未登記を防ぐための改正項目が、相続登記の義務化です。不動産を相続した場合、相続の開始と所有権の取得を知ってから3年以内に登記申請を済ませる必要があります。この義務規定は、2024年4月1日から施行予定です。ただし、すでに土地を相続していても所有権の取得日などによっては適用対象になります。

所有者情報の変更登記も義務

所有者情報の変更登記も、不動産登記法の改正により任意から義務規定に変わった項目です。土地の所有者は、これまで相続時の未登記以外でも特定しにくくなる場合がありました。その代表例は、諸事情により所有者の氏名や住所が変更されても登記申請されないケースです。

改正法では、氏名・住所をはじめ土地の所有者の情報が変更された場合、変更登記が義務になります。転居で住所が変わった時などは、変更日から2年以内に変更登記の申請が必須です。2026年4月までに施行の予定ですが、この規定も相続登記と同じく施行前に所有者の情報が変更された場合に適用される可能性があります。

さらに、2023年4月末頃からは、相続土地国庫帰属法が施行されます。同法は、相続や譲渡により取得した土地を国の管理下に移せる制度です。所定の要件を満たした土地については、所有権を国庫の帰属にする手続きを申請できます。今後、これらの制度が有効に機能すれば、所有者不明土地の問題は解決に向かうと期待されています。

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