アンカリング効果をビジネスで活用するには?
更新日:2023.05.11ビジネス豆知識アンカリング効果は、人々が最初の情報に影響される心理作用を指した言葉です。ビジネスの場では、消費者心理に大きく影響を及ぼす効果が期待されています。アンカリング効果について理解を深めれば、マーケティング活動などで役立つでしょう。そこで今回は、アンカリング効果の概要とともに、実際の活用例や活用時の注意点をご紹介します。
目次
アンカリング効果の概要
アンカリング効果は、最初に示された情報が心の動きに大きく影響する作用です。以下では、この言葉の由来や身近に見られる具体例、フレーミング効果との違いをご紹介します。
言葉の由来
アンカリング効果(anchoring effect)は、英語のアンカー(anchor)に由来する言葉です。英語のアンカーには、もともと「船の錨」「錨を下ろす」「錨で船を固定する」などの意味があります。ここから派生し、何かを「固定する」や「つなぎ止める」のニュアンスでも使われます。
「固定する」の意味合いがあるアンカーに、エフェクト(効果)を組み合わせた表現が「anchoring effect:アンカリング効果」です。心理学の分野などでは、最初の情報により心理的な動きが固定化する現象を意味します。アンカリング効果はビジネスで消費者心理に及ぼす影響が大きいとの認識もあり、もともとマーケティング手法としても多く用いられています。
身近に見られる具体例
身近に見られるアンカリング効果の具体例は、スーパーのチラシやバーゲンセールで用いられる値引き広告です。値引き広告では、通常の販売価格を横線で消したところに割引価格を併記するパターンが多く見られます。ほとんどの広告チラシでは、さらに「~%OFF」などの表記を添えるケースが目立ちます。
この場合では、横線で消された通常の販売価格がアンカリング効果において最初に示される情報です。チラシを見た消費者は通常価格として記された数字に影響を受け、併記された割引価格を安いと感じやすくなります。さらに「~%OFF」と付記すれば割引率も理解しやすくなり、消費者の購買意欲を刺激する効果は高まると考えられます。
フレーミング効果との違い
フレーミング効果は、アンカリング効果と同じく心理面に影響するといわれる作用の一種です。両者は、情報提示の方法に違いがあります。アンカリング効果の場合、情報を示す順番が重視されています。値引き広告は、「定価〇〇円のところ△△円に値引き」と宣伝するケースが典型的です。先に定価を示すことで、値引き価格の安さをアピールします。
フレーミング効果は、事実の伝達を重んじる方法です。値引き広告の場合、「定価から~%OFF」や「定価の~%の価格」の表現が用いられます。シンプルに割引率の事実を強調し、消費者に商品購入を促します。アンカリング効果は、最初の情報提示で心の動きを左右するところが、事実のみを強調するフレーミング効果との大きな差異です。
アンカリング効果の活用方法
ビジネスの場では、商品の値引き広告に限らずアンカリング効果を活用できます。以下では、マーケティング、人材採用、従業員のモチベーション向上などに見られるアンカリング効果の活用方法をご紹介します。
マーケティングに見られる活用例
マーケティング事業は、ビジネスシーンにおいてアンカリング効果の活用例が多いといわれる分野です。実際の事例としては、飲食店や自動車販売の料金設定が挙げられます。飲食店は、複数のメニューを用意しているケースが一般的です。通常、高額のメニューがアンカーの役割を果たし、価格の安い料理に注文が集中します。
自動車販売の場合、自動車の本体価格がアンカーになります。多くの自動車は、中古でも安くありません。数十万~数百万円の車を購入すると、購入者にとっては数万円のオプションサービスも安く感じられ追加で申し込む傾向が見られます。
人材採用で活用されるケース
人材採用では、給与などについて好条件の情報を提示する方法がアンカリング効果を発揮します。給与額は、労働者が就職先を決めるうえで重要な検討項目です。月々の所得は生活レベルを大きく左右するため、業務内容が同じであれば多くの求職者は給与の高い職場を選ぶと考えられます。
労働者の心理に注目した場合、人材募集で最初に高額収入を見込めるとアピールする方法は有効です。資格や業務経験の有無で支給額が変わるとしても、高所得が実現できる可能性を示すと求職者の興味を引くのに役立ちます。これまで人材募集で応募が少なかった場合、給与関係をはじめ好条件の情報をアピールすれば応募者は増えるかもしれません。
従業員のモチベーション向上にも
ビジネスの場でアンカリング効果を活用すると、従業員のモチベーション向上にも有効です。このケースでは、仕事を始める前の習慣的な行動がアンカーに該当します。あくまで心理的な効果を期待したものであり、具体的に仕事の進め方を細かく考える必要はありません。
よく実践されている方法は、業務の開始前にデスク周りを整理するパターンです。デスク周りを片づけると、仕事を始める意識は高まるとの声が聞かれます。また、好きなお茶を飲み、気持ちを落ち着けてから業務に着手する方法も効果的です。いずれの行動も、心理的に業務を開始する合図になれば、仕事に対する従業員のモチベーションを上げるのに効果があります。
アンカリング効果の注意点
ビジネスでアンカリング効果を活用する場合、実践するタイミングや法的な問題について注意が必要です。以下では、アンカリング効果の活用時に気をつけたい注意点をご紹介します。
実践時にはタイミングに注意
ビジネスでアンカリング効果を実践する時は、最初の情報を示すタイミングについて注意が不可欠です。アンカリング効果は、最初の情報提示で顧客や商談相手の心理を左右する必要があります。最初の情報がアンカーとして機能すれば、その後の交渉を有利に進めやすくなります。
営業活動で新しい商品・サービスの購入を促すなら、まず類似品の相場価格を伝えることが大切です。その後で自社の販売価格が相場より安いと案内すれば、価格の魅力をアピールできます。先に交渉相手から希望の購入価格を示されると販売価格の安さを強調することは難しくなるため、情報提示のタイミングは重要になります。
法的な問題にも注意が必要
商品・サービスの価格の安さをアピールする場合、法律に触れないかどうかの注意も必要です。日本では、商品・サービスの表現方法について景品表示法で規制されています。あらゆる提供品は、チラシやテレビCMで品質・内容・価格などの案内・説明を偽ると同法の罰則対象になります。
同法の規定によると、一定期間にわたり販売実績のある値段でなければ通常価格とは認められません。バーゲンで値引きしたとアピールする時も、販売実績のない値段を定価として表示すると法律に抵触します。チラシなどで「定価より安い」と表現する場合、景品表示法に沿っているかどうかの確認は必須です。
さらに、アンカリング効果は、アンカーとなる情報によって効力が変わる場合もあると指摘されています。ビジネスで活用した時も、すべての情報が心理的に大きな影響を及ぼすとは限りません。安易に活用すると、望まない結果を招くリスクもあります。値引きのアピールも、あまり安く価格設定して消費者から「不良品ではないか」と不信感を抱かれれば逆効果です。
そのため、アンカリング効果を有効活用するには、最初のアンカーに用いる情報を慎重に選択する姿勢も大切と考えられます。
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