ベーシックインカムとは?仕組みやメリット・デメリット、海外の事例を解説

更新日:2023.02.27ビジネス豆知識

ベーシックインカムとは

ベーシックインカムは新しい社会保障のあり方として注目されている制度。世界では試験的に導入している国や地域もあり、日本においても議論が活発になっています。本記事ではベーシックインカムの仕組み、メリット・デメリット、海外の事例について解説します

ベーシックインカムとは

ベーシックインカムとは、年齢・性別・所得に関わらず、すべての国民に対して一定の金額を支給する制度のこと。イギリスの思想家トマス・モアが16世紀に出版した『ユートピア』が起源であると言われており、500年以上の歴史がある概念です。

アメリカ独立宣言に大きな影響を与えた『コモンセンス』の著者であるトマス・ペインは、現代にも続くベーシックインカムの基礎を形作った人物の一人として知られています。

ベーシックインカムの仕組み

現在の日本には、年金・生活保護・失業保険などの社会保障制度があります。制度が適用されるためには、年齢や所得といった一定の条件を満たさなければなりませんが、ベーシックインカムは無条件ですべての国民が支給対象となります

ベーシックインカムを導入することで社会保障制度の簡略化、貧困の改善などが期待できます。一方で、ベーシックインカムを実現するためには、財源の問題を解決しなければなりません。財源を確保するための案としては、社会保障費の削減や増税などが検討されています。既存の社会保障からの移行、膨大な財源の確保が、ベーシックインカムを導入する上での大きな課題です

ベーシックインカムが注目される要因

古くから提唱されてきたベーシックインカムが日本で再注目されている要因は、大きく3つあります。

1つ目は貧富の差の拡大です。非正規雇用の増加や急激な物価上昇などを背景に、貧困問題が深刻化していており、不公平感も高まっています。生活保護など、一部の人のみを対象とした支出が増え、労働者への増税が相次ぐ現状を解決する一つの手段として、ベーシックインカムが関心を集めています。

2つ目は、AIの飛躍的な進化です。技術の発展や効率化を背景に、さまざまな分野の仕事がAIやコンピューターに置き換わり、自動化が広がっています。仕事を失う不安が膨らむ中で、一定の収入が得られるベーシックインカムに興味を示す人が増えています。

3つ目は、コロナ禍による収入減です。感染症のパンデミックという非常事態により、思いがけず所得が減ってしまった人は少なくありません。コロナ禍の収束が見えず、収入の改善の目処が立たなければ生活にも大きな影響が出ます。また、コロナ禍に限らず、今後も何らかの問題が発生したときに、ベーシックインカム制度が整っていると安心できるといった考えが広がっています。

ビジネスにもたらす影響1:メリット編

ビジネスにもたらす影響

ベーシックインカムが導入されると、具体的にどのようなメリットが生まれるのでしょうか。ベーシックインカムがビジネスにもたらすメリットには「貧困問題の解消」「労働意欲の向上」「長時間労働などの労働環境の改善」が挙げられます。

ここでは、3つのメリットについて詳しく解説します。

貧困問題の解消

ベーシックインカムにより一定の所得を補償することで、最低限度以上の生活を送れるようになります。日本には年金・生活保護・失業保険などの社会保障制度がありますが、支給対象とならないワーキングプアへの支援が課題でもあります。しかし、ベーシックインカムを導入することで、「働いても生活が苦しいまま」というワーキングプア対策にもつながり、貧困問題の解消が期待できるでしょう。

労働意欲の向上

ベーシックインカムを導入することで、労働意欲の向上も見込めます。一定の所得が補償されているため、やりたい仕事を選び自分に合ったペースで働くことが可能です。もちろん働けばそれだけ収入は増えるシステムのため、やりがいをもって仕事に取り組みやすくなるでしょう。生活のために働くのではなく、起業・副業など多様な働き方から自由に選べる点もベーシックインカムの魅力です

長時間労働などの労働環境の改善

最低限度の生活が保障されると、雇用条件の良くない職場で無理に働く必要はありません。現在は長時間労働による健康被害などが社会問題となっていますが、ベーシックインカムを導入することで、労働環境の改善が期待できます。企業側にとっても、職場環境・福利厚生を整えることは、労働意欲の高い優秀な人材の確保につながるでしょう。ベーシックインカムは、すべての国民に影響する制度となるため、うまく機能すれば社会全体に好循環が生まれます

ビジネスにもたらす影響2:デメリット編

ベーシックインカムがビジネスにもたらすメリットがある一方で、「適切な金額の算出」「税源確保の問題」「労働意欲の低下」などのデメリットもあります。ベーシックインカムを本格的に導入するためには、これらのデメリットに対する解決策を提示しなければなりません。

適切な金額の算出

最低限度の暮らしを送れる生活費は、個人の価値観や家族構成などさまざまな要因で変わるため、ベーシックインカムとして支給する「適切な金額」を決定するのは困難です。また、既存の社会保障制度を利用している人は、ベーシックインカム導入により、所得が大幅に減る可能性もあります。すべての世代にとって公平な金額を算出することは難しく、段階的な移行を検討する必要があります。

税源確保の問題

国民一人ひとりに給付を行うには、膨大な資金を確保しなければなりません。日本だけでなくほとんどの国においても、ベーシックインカムの財源は現在の税収で対処できる金額ではないと指摘されています。

現在の日本においては、社会保障費を全額ベーシックインカムに投入した場合、国民一人当たり6万〜7万円程度の支給額に留まります。しかし、この金額では最低限度の生活を送ることができません。制度として機能させるには、大幅な増税を含む税制改革は避けられないでしょう

労働意欲の低下

ベーシックインカムにより労働意欲が向上する可能性がある一方で、生活レベルの変化を望まなければ無理に仕事を探す必要はなくなります。そのため、無条件での支給は労働意欲の低下を促すと不安視する声も少なくありません。ベーシックインカムは「働かなくても最低限度の生活を送ることができる」制度です。労働世代の意欲低下は、経済活動の停滞に直結するため、社会全体で対処していくべき課題と言えます。

世界の導入事例

世界の導入事例

世界では、ベーシックインカムを試験的に導入している国・地域もあります。ここでは、カナダとカリフォルニア州の事例からベーシックインカムの効果や影響を紹介します

カナダの成功例

カナダでは、1970~2010年代にかけて複数の地域でベーシックインカムを試験的に導入しました。中でも、1974〜1979年にマニトバ州で行われたパイロットプログラムは、「貧困問題解消」の観点からポジティブな効果があったと報告されています。

また、懸念点として挙げられていた労働意欲の低下もほとんど見られず、「労働環境の改善」や「社会保障費用の削減」も達成した成功例として高く評価されています。

カリフォルニア州の事例

アメリカのカリフォルニア州では、2019年からベーシックインカムを実験的に導入しています。対象地域であるストックトンでは無作為に抽出された125人に、月額500ドルを支給して調査を行いました。2022年8月時点では500ドル(≒6.5万円程)となるため、ベーシックインカムだけで生活することはできませんが、一定の所得が補償されたことで、心身の健康に良い影響があったと報告されています。

日本へのベーシックインカムの導入予定は?

日本でもベーシックインカムの導入が検討・議論されていますが、財源の確保が大きな問題となっています。現金給付と減税を組み合わせた「給付付き税額控除」などが議論されているものの、すべての国民を対象としたベーシックインカムの導入は、まだまだ先になりそうです。そのため、既存の社会保障制度を踏まえた上で、対象者をワーキングプアなどに限定した試験的な取り組みからスタートする可能性もあります。

ベーシックインカムのメリット・デメリットを理解しておこう

ベーシックインカムは現在の社会問題の解決につながるメリットが多い制度です。一方で、財源確保や労働意欲低下などのデメリットがあり、実現が難しいとも言われています。世界的にも注目が高まっていますが、本格的にベーシックインカムを導入している国はまだありません。既存の社会保障制度を根本から見直すことになるベーシックインカムについて、理解を深め、自分なりの意見を持っておくことが大切です。

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