「悪い円安」とは?歴史的円安が進む原因と問題点
更新日:2023.06.02スタッフブログ昨今の為替相場は、歴史的といわれる円安が進んでいる状況です。国内では物価上昇による景気の悪化が懸念されており、専門家によっては「悪い円安」と表現されていることも。ただ実際のところ、現在の円安に関する意見は必ずしも一致していません。そこで今回は円安と円高の基本的な仕組みをふまえ、よい円安と悪い円安の違い、歴史的な円安を引き起こした原因、現状が抱える問題点などについて解説します。
目次
円安・円高の基本的な仕組み
円安・円高は、他国の通貨に対する円の価値を示した用語です。円の相対価値が安いか高いかは、基本的に為替相場の動きをふまえ判断されます。
そもそも円安・円高とは?
そもそも日本の国内通貨である「円」は相対的な価値が下がると円安、逆に上がれば円高と表現されます。かつて戦後の日本円は固定相場制であり、1ドル=360円に設定されていました。この場合、ドルに対する円の価値は変化せず円安にも円高にもなりません。やがて日本が経済的に大きな成長を遂げると、1973年から現在と同じ変動相場制に移行しました。
それ以降は、為替相場の変化に合わせ円安・円高の言葉が使われ始めます。円安は円の価値が下がり、為替レートで外国通貨との交換比率が比較基準より多くなった状況を意味し、円高は反対のパターンです。1ドル=100円を基準とした場合、円の価値下落で1ドルと交換できる金額が110円に増えると「円安」となります。一方、価値の上昇により90円で交換できれば「円高」の状態です。
ビジネスへの影響
ビジネスで円安・円高が大きな影響を及ぼす代表的な分野は、輸出入関係の産業や旅行業界です。まず為替相場が1ドル=100円から110円へと円安に動くと、より高額の商品を1ドルで買ってもらえるため輸出産業が有利になります。逆に90円の円高に変われば、同じ1ドルの商品がより安く購入可能となり輸入産業から喜ばれます。
旅行業界も同様であり、円安なら海外の方が出費を抑えながら日本の商品をたくさん買える国内旅行がアピールしやすい状況です。また円高の時は、日本人にとって国外の人気ブランドが買いやすくなる海外旅行に注目が集まると考えられます。最近は以前に比べると訪日する外国人旅行者が増えたため、国内の観光地に為替相場の動きが及ぼす影響力も大きくなりました。
日常生活との関わり
為替相場における円安・円高の動きは、ビジネスシーンだけでなく日常生活とも深く関わっています。現在、国内で身の回りにある商品は輸入に頼っている部分が小さくありません。円安で海外から供給されている原油や原材料の値段が高くなると物価上昇につながり、円高に動くと逆の流れになり物価は下がります。
ネットショップでの買い物も、為替相場の影響を受けるケースのひとつです。輸入品を購入する場合、輸入業者と同じく円安より円高の時のほうが海外産の食品や雑貨を安値で手に入れられます。昨今はコロナ禍でネットショップの利用者が急増したこともあり、これまで以上に国内の消費者は為替相場の影響を受けやすくなっているかもしれません。
よい円安と悪い円安の違い
様々な円安があるうち、よい円安は「よい面」が強く出ている状況です。それに対し「悪い面」が強くなれば、悪い円安といわれます。
円安の「よい面」とは
円安の「よい面」はひとつに限られませんが、一般的には「景気がよくなる傾向にある」ことを指します。日本のビジネス界に目を向けると、とくに大手企業は海外向けに商売しているところが中心です。先述の通り円安では日本の商品を安く売れるため、輸出産業にとって有利に働きます。
輸出がメインの企業で業績が上がれば、賃金に反映されます。一般家庭の収入増が消費活動に結びつけば、国内市場の活性化に効果的です。さらに株価が上がり配当金が増えると、投資家への恩恵も少なくありません。いずれにしても円安の影響により国内景気が上向いた場合は、「よい円安」といえるでしょう。
円安の「悪い面」とは
円安の「悪い面」も「よい面」と同じく一様ではありませんが、なかでも「物価高で景気が悪化する」ケースを指します。海外相手の商売には輸出業だけでなく輸入業もあり、円安は輸入中心の企業に不利といわれる状況です。海外から原油や原材料を入手する際、輸入コストが上がると業績の悪化につながります。
国内の製造業にとっても、原料費の上昇は経営を圧迫する要因です。また輸入コストや原料費の増加は、国内で消費されるエネルギーや食料品の価格に転嫁される場合もあります。様々な方面で物価が高くなり消費の低迷により国内景気が落ち込むと、「悪い円安」といわれます。
現在の状況はどちら?
現在は、簡単に表現すると円安が進んでいる状況です。ただ専門家などからは、簡単に良し悪しを論じられないとの声が少なからず聞かれます。
2022年1月から5月まで、ドル円の大まかな値動きを終値で示すと次の通りです。
1月1日:1ドル=115.10円
2月1日:1ドル=114.99円
3月1日:1ドル=121.66円
4月1日:1ドル=129.83円
5月1日:1ドル=127.14129.16円
また過去5年間のドル円の動きを見ると、5月1日時点で次の通りに推移しています。
2017年:1ドル=110.75円
2018年:1ドル=108.81円
2019年:1ドル=108.26円
2020年:1ドル=107.77円
2021年:1ドル=109.54円
今年は5月1日の終値が130円近くになり、過去5年間が110円前後であったのに比べると大幅に円安が進んだと分かります。とはいえ良し悪しの判断は難しく、専門家の間でも意見は一致していません。
現状が抱える問題点
現在、国内経済が抱える大きな問題点は原油高などによる物価の上昇です。このままでは景気悪化を招くと指摘されていますが、その原因については各方面で意見が分かれています。
経済状況に関する見解
最近の経済状況に関する見解は、これまでにない円安を経験しているとの考え方が主流です。3月29日、首相は原油価格および物価の高騰に対する総合緊急対策の取りまとめを関係閣僚に指示しました。期限を4月末までの約1カ月間と定めたことから、どれだけ作業を急いでいるか理解できます。
一方、日銀は3月28日に長期金利を抑え込む姿勢を鮮明に示しました。この方向性はアメリカ中央銀行であるFEDと異なり、為替トレーダーは双方の違いを嫌ったと伝えられています。以上の動きは、日銀だけ円安を指向している点が特長的です。日本では戦後初の状況にあり、専門家などは歴史的な円安と説明しています。
物価高騰や円安の原因
このところ国内で起きている物価高騰や円安は、大方の意見によるとロシアのウクライナ侵攻が主な原因です。長期にわたりウクライナ情勢が落ち着かず原油高となり、輸入に多くを依存している日本の食品や日用品は値上げが続いています。また円安も、ウクライナ侵攻の影響が小さくないと見られています。
ただ円安については別の見方もあり、そこで示された原因のひとつが「日本の経済構造の変化」です。様々な製造業が活動拠点を国外に移し、製造部品などを海外へ輸出するケースは減りました。輸出の減少で円の需要は下がり、この変化からも今回の円安は進んだと指摘されています。
さらに景気悪化の原因についても意見は一致せず、円安の影響だけとは考えられていません。近年は輸入が増える傾向にあり、貿易黒字の落ち込みも景気が低迷した要因に挙げられています。これらの点をふまえるなら、現在の円安が悪いかどうか決めるのは時期尚早かもしれません。
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