消費者心理に影響するステルス値上げとは?
更新日:2023.04.19スタッフブログステルス値上げは、商品・サービスの販売価格を変えず実質値上げする方法を意味します。事前に消費者へ実施を知らせないことが特徴であり、企業イメージを損なうリスクは小さくありません。消費者心理を考えた場合、企業は値上げの方法や伝え方に工夫を求められるでしょう。そこで今回は、ステルス値上げの特徴とともに消費者の評価や企業が気をつけたい注意点をご紹介します。
目次
ステルス値上げとは
ステルス値上げは、販売価格を変更せず消費者が気づきにくい形で実施される値上げの方法です。具体的には値段そのものでなく商品に手を加え、実質的に値上げするパターンが知られます。
基本的な特徴
基本的にステルス値上げは、消費者の目に入りにくいところで商品を部分的に変えている点が特徴的です。もともと「ステルス(stealth)」は、「隠密」や「こっそり行うこと」を意味する言葉です。軍事方面では、レーダーで捕捉できない戦闘機が「ステルス戦闘機」と呼ばれています。
この意味をふまえ、ビジネスに当てはめた表現が「ステルス値上げ」です。商品価格の上昇による収益低下を避けるため、販売側が消費者に分かりにくい部分で実質的に値上げするケースが該当します。あくまで「こっそり行うこと」が前提であり、あらかじめ消費者に告知している場合は該当しません。
よく見られるパターン
最近、よく見られるステルス値上げは、商品の容器や内容量を従来品から変更するパターンです。商品の容器については、以前よりサイズを少し縮める方法が多用されます。パッケージの形状やデザインは従来通りであり、容器の大きさも一見しただけでは気づかない程度に変えるケースが主流です。
内容量の場合、容器自体は以前と同じまま中身が変わります。単品で売られている食材やお菓子はサイズが小さくなり、複数が袋・箱に入っている場合は個数が減るなどの方法が取られることもあるでしょう。これらの手法からステルス値上げは、「シュリンクフレーション」という名称でも呼ばれます。「容器・内容量の縮小(シュリンク)」と「物価上昇(インフレーション)」を組み合わせて作られた言葉です。
値上げ増加の要因
昨今、さまざまな商品の値上げが続いている主な要因は、コロナ禍の影響や原材料・エネルギー資源の価格高騰です。ここ数年はコロナ禍で世界的に景気が低迷しましたが、最近は経済活動が再開されるなか各方面で商品やサービスに対する需要が高まっています。多くの企業は景気回復の機会と認識し、収益を伸ばすため値上げを進めています。
原材料やエネルギー資源の価格高騰は、いまも混乱の続くウクライナ情勢から生じたといわれる事態です。さまざまな商品・サービスのコスト増を招き、採算を取るためインフラ関係から生活必需品まで値上げは避けられなくなっています。いずれにしても販売価格の上昇による消費者離れは企業にとって好ましくなく、ステルス値上げを選択するケースが増えているといわれます。
消費者の評価
最近の調査を見ると、ステルス値上げに対する消費者の評価は必ずしも一律でなく賛否両論です。本来は分かりにくさに特徴のある方法ですが、現実は敏感に察している消費者が少なくありません。
消費者庁の調査
消費者庁が実施した調査によると、ステルス値上げ(実質値上げ)の増加を実感しているとの声は約8割に達しています。消費者庁は、「平成30年7月物価モニター調査結果(速報)」で実質値上げに対する消費者の意識についてデータを示しました。調査対象は、全国47都道府県に居住する2,000人の物価モニターです。
調査結果では、「3年前と比較して実質値上げが増えたと感じる」との回答は80.8%でした。具体的な人数は2,000人×0.8=1,600人以上に及び、モニターの大半は実質値上げに気づいている計算です。
モニターの意識
消費者庁の調査に限ると、実質値上げに対する印象がよくないモニターは約2割にとどまっています。同調査で、「日常的に買っている商品について、実質値上げが原因で買う商品を変えた(または買うのをやめた)ことがある」との回答は23.9%でした。8割近くは、そのまま購入を続けていると理解できます。
また「実質値上げは不誠実だと感じる」という回答は、22.6%でした。こちらも、実質値上げにより商品・サービスの印象が変わっていない人数は同じくらいの割合を占めると判断されます。これらの声にもとづき、一部では消費者が必ずしもステルス値上げに否定的でないと考えられています。
賛否両論の実状
消費者庁が示した先のデータでは、実質値上げを容認する回答も2割ほどにとどまる結果でした。同調査でステルス値上げを肯定的に見る声としては、「物価上昇による実質値上げは仕方がない」との意見が挙げられます。こちらの回答割合は19.1%であり、先述の否定的な意見2つと大差ありません。
以上の回答状況を見た場合、肯定派と否定派はいずれも2割前後と考えられます。どちらか一方が多数を占めるわけでなく、その意味では賛否両論に分かれていると理解してもよいでしょう。ただ明確に意見を示していないモニターも多いと見られ、消費者は実質値上げに気づいていても評価を控える傾向にあると考えられます。
企業が気をつけたい注意点
いまはコロナ禍やウクライナ情勢の先行きが見えにくく、多くの企業は値上げを迫られている状況です。とはいえ消費者心理を考慮すると、伝え方などに工夫する必要があると指摘されています。
消費者心理
ここ最近の値上げに対し、消費者の心理はさまざまです。多くの家庭では家計への負担を感じていますが、単に反対する意見ばかりでなく適切な値上げを望む声も聞かれます。2022年7月にサービス業の支援会社が実施した消費者の意識調査によると、約8割が昨今の値上げで「家計への負担がある」と回答しました。また値上げを支持しない声は38.4%に達するものの、支持派も26.3%に及んでいます。
ステルス値上げに関しては、「(どちらかといえば)ステルス値上げの方が嬉しい」と賛成する回答が25.2%でした。一方、「(どちらかといえば)内容量そのままで分かりやすく値上げしてほしい」との回答は48.4%です。以上のデータから、消費者は値上げに強く反対しているわけではないと分かります。ただ半数近くは、ステルス値上げでなく一般的な分かりやすい値上げを望んでいると考えられます。
伝え方の工夫
企業による値上げは伝え方によって、顧客に与える印象が変わります。数年前に話題を集めた事例としては、人気のあるアイスの値上げについて伝えたCMが挙げられます。そこでは「謝罪の意」を示すため会長や社長が頭を下げ、消費者への気遣いが感じられる姿勢はSNS上などで好評を得ました。
販売価格を変えない場合、パッケージ変更に伴い「食べやすいサイズ」の宣伝文句で中身を減らし実質値上げする方法も見られます。このケースは、何も伝えないステルス値上げほどでなくても消費者から「ごまかし」と思われるリスクがあります。
いまは実質値上げに対する社会的な意識が高まっているため、商品の容器や内容量を変える時も分かりやすく伝える工夫は欠かせないでしょう。さらに値上げ自体を避けたい場合、いまは補助金を活用する選択肢も用意されています。政府は、各方面の厳しい経済情勢をふまえ企業への支援策を拡充する方針です。
コロナ禍で導入された中小企業向けの補助金は、2022年から原油価格・物価の高騰など経済環境の変化で影響を受けている事業者に支援対象が広がりました。これまで以上に幅広い支援枠が用意されているため、製造や流通のコスト増などに悩んでいるなら詳細を確認しておくのがおすすめです。
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