【労働時間の上限規制】物流業界の2024年問題について
更新日:2024.07.12スタッフブログ2024年4月1日以降、自動車運転業務は、時間外労働に上限が設けられます。運送・物流業界では、時間外労働の上限規制で予想される問題が「2024年問題」と呼ばれ、懸念材料になっています。どのような問題が懸念されるか把握すれば、これから対策しやすくなるでしょう。そこで今回は、時間外労働の上限規制について概説し、2024年問題の内容や運送・物流業界の課題・今後に求められる対応策をご紹介します。
目次
時間外労働の上限規制とは
時間外労働の上限規制は、これまで特別な理由があれば実質制限がなかった残業時間に上限を設ける法改正です。以下では、時間外労働を規制する目的・上限規制の原則・自動車運転業務の上限規制について概要をご紹介します。
時間外労働を規制する目的
法律による時間外労働の規制は、長時間労働を是正することが主な目的です。厚生労働省と関係機関が公表した資料によれば、長時間労働は、健康の確保を困難にすると説明されています。また、少子化・女性のキャリア形成の妨げにつながる原因、および男性の家庭参加を阻む障害になるとの見解が示されました。
時間外労働の規制は、長時間労働に伴う各種問題を是正するため実施されたと記されています。具体的には、労働基準法の改正により時間外労働に上限規制を設け、ワークライフバランスの改善を目指す考えです。厚生労働省は、この法改正により女性や高齢者が就業しやすくなり、労働参加率は向上すると期待しています。
参照:厚⽣労働省 時間外労働の上限規制 わかりやすい解説 (参照 2020.04)
上限規制の原則
労働基準法の改正に伴い設定された残業時間の上限は、月間45時間・年間360時間が原則です。この上限規制は、大企業に対して2019年4月から、中小企業向けには2020年4月から施行されました。原則をふまえ1カ月(20日間)に45時間まで残業した場合、1日あたりの時間外労働は2時間ほどになる計算です。
ただし、あくまで原則であり、さまざまな業種の現状に配慮して例外措置が設けられています。例外措置を見ると、臨時的な特別な事情があり労使間で合意している場合、年720時間以内の残業が可能です。また、複数月平均は80時間以内、月々100時間未満と定められています。なお、複数月平均と月々の時間外労働には、休日労働も含まれます。
参照:厚生労働省 時間外労働の上限規制(参照 2019.04)
参照:厚生労働省 働き方改革に関する取組について(参照 2021.04)
自動車運転業務の上限規制
自動車運転業務における時間外労働の上限規制は、法定休日労働を含まず年間960時間です。厚生労働省の資料によると、この業務に対する上限規制は、2024年3月31日まで適用されません。さらに、同年4月1日からの施行後も、当面は一般企業向けの原則・例外措置の適用を検討すると記しています。
また、トラック運転者については、労働時間などを改善するため別途に拘束時間や休息期間の基準が示されました。労働基準局の資料では、1日の拘束時間は基本13時間以内(上限16時間)、勤務終了後の休息期間は継続8時間以上が必要となっています。厚生労働省は、以上の上限規制や各種基準を設けることで、自動車運転業務における労働時間の是正を目指しています。
参照:厚生労働省 トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント
運送・物流業界の2024年問題
労働基準法の改正に伴い運送・物流業界が懸念している問題は、売上・収入の減少や配送料金の上昇です。以下では、法改正による時間外労働の上限規制で運送・物流業に生じると予想されている問題点をご紹介します。
売上の減少
売上の減少は、運送・物流業を営む企業が懸念を抱いている問題です。この業種は、ドライバーが人や荷物を運ぶ労働量が売上に直結するビジネスモデルといわれています。長い時間をかけて全国各地に多くの人・荷物を届けるほど、企業の収益につながる仕組みです。
そのため、ドライバーの労働時間が制限された場合、売上は減少する可能性があると指摘されています。配送業務の時間が削られ人件費が抑えられても、他の必要経費が変わらなければ、収益は減るだろうとの声が少なくありません。企業にとって売上の減少は望ましくなく、2024年4月から適用される時間外労働の上限規制は問題があると見られています。
収入の減少
収入の減少は、実際に配送業務を担当しているドライバーが懸念している問題です。現在、多くのドライバーは、所定の業務時間が過ぎても働き続けているといわれています。業務時間外も働いた場合、通常、基本給とは別に時間外手当が支給されているでしょう。
法改正で時間外労働が上限規制されると、時間外手当の支給額は以前より少なくなる可能性があります。さらに、勤務先の売上高が減れば、基本給も減額されるかもしれません。そのため、運送・物流業界のドライバーには、収入が減るだけでなく離職が増えるのではないかと不安視する方も見られます。
配送料金の上昇
配送料金の上昇は、運送・物流サービスの利用者にも関わる問題です。運送・物流業者の売上が減った場合、そのままでは採算が取れず業務継続が難しくなるケースも発生するでしょう。企業によっては、売上の減少分を補うため利用料金の値上げを避けられなくなる可能性があります。
自動車運転業務で時間外労働の規制が適用された後、荷物の配送費やバス・タクシーの運賃が高くなるケースは増えるのではないかとの声も聞かれます。荷主やバス・タクシーの利用者にとって、コスト負担が重くなる可能性は否定できません。配送料金の上昇は利用者から見ればマイナス要素であり、時間外労働の上限規制は運送・物流サービスの利用低迷につながるリスクも懸念されています。
現状の主要課題や今後の対応策
運送・物流業界の現状をふまえた場合、人手不足などは主要課題に挙げられるでしょう。時間外労働の上限規制には罰則があるため、適切な対策が必要になると考えられます。以下では、現状における主な課題や今後に求められる対応策をご紹介します。
現状における主な課題
運送・物流業界が直面している大きな課題は、人手不足の問題です。近年、この業界の人手不足は深刻化しているとの声が多く聞かれます。国土交通省が示したデータによれば、貨物自動車運転手の有効求人倍率は、2018年4月に2.68倍でした。
この数字から、求職者1人につき2.68カ所の業者が配送ドライバーを求めていると理解できます。全職業の同倍率は1.35倍であり、運送・物流業界の人手不足は深刻な状況にあると考えられます。また最近は、ドライバーの高齢化が進んでいるとの声も出てきました。さらに、1人のドライバーが長距離輸送するケースも珍しくありません。そのため、ドライバーの年齢や配送方法の問題も見過ごせない課題に挙げられています。
参照:国土交通省 トラック運送業の現状等について (参照 2018.6)
今後に求められる対応策
今後、運送・物流業界に求められる対応策は、人材の確保や配送方法の見直しです。人材確保は、ドライバー不足を解消する対策として不可欠といわれています。時間外労働の上限規制に違反した場合、6カ月以下の懲役か30万円以下の罰金を科される可能性があるため、人員の補充は急がれるでしょう。
社内に高齢のドライバーが多い時は、若手のドライバーを採用できれば、年齢の問題を改善する対策になります。また、人材確保は、配送方法を見直すうえでも有効です。ドライバーの人数が増えれば、長距離輸送を複数人で分担できるかもしれません。その場合、各々の労働時間は短縮すると期待できます。
他には、ITシステムを活用すると、配車管理をはじめ事務的な作業を効率化するのに役立ちます。これまでトラックの配車や荷物の管理に時間を取られていた場合、新システムの導入は作業効率の向上につながるでしょう。今後、時間外労働の上限を守りながら配送業務を円滑に進めるため、適切に対策することをおすすめします。
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