会社更生手続きとは?倒産とどう違う?

更新日:2023.03.15ビジネス豆知識

倒産

航空会社大手の「日本航空(JAL)」は2010年1月、経営危機を理由に「会社更生手続き」を申請し、話題となりました。無事再建に成功しましたが、事実上の「倒産」を経て、今日にいたります。そもそも会社更生手続きとは、一体何なのでしょうか。今回は、会社更生手続きの基礎知識に加え、適用に際してのメリットやデメリットを解説します

会社更生手続きとは?

会社更生手続きとは、1952年に制定された「会社更生法」にもとづく法的整理手続きです。債権者や株主などの利害関係者を調整することで、経済苦境にある株式会社の維持更生を図ります。予納金が莫大であり、また申請手順も複雑であるため、過去の事例を見ても一部の大企業しか利用していません。

会社更生手続きの特徴は、以下の通りです。

□株式会社しか利用できない
□清算型ではなく、再建型手続きである
□裁判所側が選任した管財人が遂行する
□原則として経営陣は一斉交替する
□原則として資本構成が変更される
□担保権者の権利行使に制限がある

難解な部分が多く、同手続きを正確に理解している方は少数派です。本記事では上記の特徴を踏まえ、段階的に解説していきます。

会社更生手続きの適用要件

会社更生手続きは、以下の要件を満たした場合にのみ申請可能です。

1.破産手続開始原因の恐れが認められた時
2.債務の弁済により、当該事業に著しい支障をきたす恐れがある時

企業は本来、資産と借金のバランスを保たねばなりません。それこそが正常であり、会社経営には欠かせないファクターです。一方、赤字決算が続いたり、借金の割合が増えてきたりすると、債務過多になる恐れがあります。それを法律的には「破産手続開始原因の恐れが認められた状態といい、会社更生手続きの適用要件となっています。

また、借金の弁済において、事業の継続が困難になるケースもあります。その場合も適用要件にあたり、会社更生手続きを進めることがあります。2010年に「日本航空」が会社更生手続きをもって一度倒産したのが、記憶に新しい事例です。

「日本航空」は、景気悪化にともなう収益低下や肥大化した人件費など、あらゆる債務の支払が追いつかなくなり、会社更生手続きを申請しました。負債額は2兆3,000億円におよび、戦後4番目となる大型経営破綻となったのです。それでも再建に成功したのは、会社更生手続きを有効利用できたためです。

倒産後に迫られる3つの選択

会社は倒産したら「破産」あるいは「再建」、どちらかの選択を迫られます。厳密には、以下の3種類の手続きを踏むことになります。

1.破産手続き
2.民事再生手続き
3.会社更生手続き

破産手続きに進む場合、会社所有の財産を換価し、債権者に配当します。これは会社自体が消滅する“清算型”の手続きです。また民事再生手続きおよび会社更生手続きは、経済苦境にある一般企業において債務免除などを行い、企業再建を目的とします。文字通り、“再建型”の手続きといえるでしょう。

各制度の特徴は、以下の通りです。

【破産手続き】

□適用法律:破産法
□目的:債務者の財産などの精算
□手続きのタイプ:清算型
□対象:限定なし(相続財産も対象に含む)
□財産の管理権者:破産管財人
□予納金の目安:管財事件の場合のみ必要(原則40万円)

【民事再生手続き】

□適用法律:民事再生法
□目的:事業または経済生活の更生
□手続きのタイプ:再建型
□対象:限定なし
□財産の管理権者:債務者
□予納金の目安:負債総額5,000万円未満なら200万円前後(一例)

【会社更生手続き】

□適用法律:会社更生法
□目的:事業の維持・更生
□手続きのタイプ:再建型
□対象:株式会社のみ
□財産の管理権者:裁判者が選任した財管人
□申請費用:数千万円

上記から分かる様に、適用される法律・目的・対象・財産の管理権者には明確な違いがあります。例えば“更生型”の手続きに関して、民事再生手続きは社内体

制の改善など、更生を主たる目的とします。一方、会社更生手続きは、事業を維持しつつ、更生も同時に進めるのが特徴です。

また、財産の管理権者の違いは以下の通りです。民事再生手続きは原則、再生債務者が管理権者となりますが、会社更生手続きにおいては、裁判所が選任した財管人が担います。同時に経営権も財管人に移り、経営者および役員は財産・権限・地位を同時に失います。一方で会社自体は存続し、消滅しません。これが“清算型”である破産手続きとの違いでもあります。

会社更生手続きのメリットは?

事実上、会社更生手続きを利用できるのは、国内トップクラスの大企業のみです。そもそも手続きを踏むメリットは一体何なのでしょうか。

メリット1.大々的な組織変更が可能

会社更生が承認された場合、会社更生法における特則が適用されます。取締役の変更をはじめ、合併や増資、定款変更なども可能です。

メリット2. 担保権などの権利行使に制限がかかる

担保権や租税などの権利行使が制限され、会社更生手続きに従います。また届け出期間満了までに申請されていない債権は失権します。

メリット3.企業価値の再評価

「継続価値(Going concern Value)により、企業価値が再評価されます。これは倒産時の清算価値(Liquidation Value)を主軸に置く、破産手続きにはない特徴です。

会社更生手続きのデメリットは?

大規模な手続きだけあり、相応のデメリットも存在します。一つひとつ見ていきましょう。

デメリット1.企業の信用不安を招く恐れがある

会社更生手続きを申請すると、法的倒産処理の開始が公になります。これが自社に対する信用不安を招くケースも少なくありません。

デメリット2.経営権や財産処分権を失う

経営者は経営権および財産処分権を失効し、裁判所選任の財管人に移管されます。同時に経営者の責任が問われるため、事実上、会社に残るのは不可能となります。経営者目線でのもっとも大きなデメリットといえるでしょう。

デメリット3.膨大な時間と費用がかかる

会社更生手続きは、手続きそのものが複雑であり、多くの利害関係が生じます。そのため、申請が通るまで、1年~3年程度かかるのが基本です。また、申請にともなう費用も莫大であり、数千万円前後を予納金として用意する必要があります。

もし勤務先で会社更生手続きが開始したら・・・

これまで、経営者目線で会社更生手続きを解説してきました。一方で、企業に勤める会社員の場合、自社が会社更生手続きを申請したらどうなってしまうのでしょうか。過去の事例を見ると、会社更生手続きを開始した企業の多くが希望退職者を募りました。

これまで通り事業は継続しますが、人員削減を目的にリストラ案を組み込んでいます。また希望退職者が集まらない場合は、整理解雇に踏み切るケースもあります。実際に「日本航空」の事例では、1,500人の整理人数に対し、1,700人の希望退職があったといいます。いずれにしても、会社自体は一度倒産することになります。再建が完了するまでは、財政面を中心に不安定な状態が続くでしょう。将来性を踏まえ、早急な転職を視野に入れるのもひとつの手段です。

会社更生手続きは、大企業向けの倒産手続き

「日本航空」の事例をご紹介した通り、会社更生手続きは大企業向けの倒産手続きといえます。破産手続きや民事再生手続きとは別物であり、それぞれの特徴やメリット・デメリットを把握することが大切です。万が一、自社が経営危機に陥ったり、勤務先が倒産したりした場合は、上記3種類の手続きをうまく使い分けましょう。

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